こんにちは。みなさんの中には「ブランディング的にどうよ」とか、「ブランドにそぐわない」などの言葉を、社内外で耳にすることがある方はいらっしゃいませんか?
デザイン会社であるわたしたちも、この「ブランディング」や「ブランド」といった言葉をよく耳にするのですが、その使われ方にちょっと違和感を覚えることが多いのです。
それは何かというと、「ブランディング=ロゴデザインを作る」というように捉えられているお客様が、結構な割合でいらっしゃるからです。
もちろん、ロゴ単体のデザイン制作もお受けしますが、制作したロゴが本当に効果的な使われ方をしているかが後で気になっています。(ロゴ制作には最善を尽くします)
とにかく「ブランディングをしたい=ロゴを作らなきゃ」となる、昨今の風潮に疑問を感じることが多いため、まずは「ブランドとは何か」と「ブランドの歴史と変遷」について、一旦整理してお話しをさせていただきます。
そもそもブランドとは何か
もともと「BRAND」という言葉は、放牧した牛に施した焼き印(BURNED)がその語源だと言われています。
このことからも解るように「ブランド」は最初、識別の手段として登場しました。
それが、今日使われるような意味での「ブランド」になったのは、P&G のアイボリー石鹸の登場からだと言われています。
この石鹸には、「IVORY」のロゴが製品の表面に刻まれていて、99.99 %ピュアで水に浮くという事を強調した広告を展開したことで、そのロゴに「品質保証」の意味合いを感じる層が増えていきました。
こうして、世界で初めて競争力を持つ「ブランド」が誕生したのです。
ブランドの起源からわかることは、ブランドとは「識別記号に何らかの独自の価値が結びついたもの」であり、記号と独自の価値との間には『約束』が存在するということです。
もし『約束』がなければ、人々にとってその『記号』は、安心して買い物ができるサインの役割を果たすことが出来ません。
ブランドと名のつくものには必ず、「顧客」と「商品・サービス・組織」との間に見えない『約束』があるのです。
わたしたちは、ブランドを「『記号』、『他とはちがう独自の価値』、その両者をつなぐ『約束』の3つから成り立りたつもの」と定義しています。
商品・サービス・組織にどんなネーミングやロゴを施しても、この3つがそろわないとブランドとは感じてもらえないでしょう。
整理すると、顧客が商品・サービス・組織に接し、そこに『独自の価値』と『約束』と感じたとき、効力を発揮するのがブランドの『記号』ということになります。
ブランドはそうして認知されていくもので、ブランドが『独自の価値』と『約束』を守り続ける限り、その『記号』は愛着度を高めて、さらにファンを生んでいくのです。
ブランドの歴史と変遷
ブランドの定義は先に述べましたが、ブランドの持つ意味は時代によって移り変わっていきます。大まかにですが、ブランドの歴史を見てみたいと思います。
【1760年~】
18世紀半ばにイギリスで起きた「産業革命」によって、パッケージ型の消費商品が生まれたことで、現在のようなブランドのあり方が誕生します。
「小規模製造業者が生産する商品に比べ、巨大企業が製造する商品は上質」など、消費者の中には商品名や企業名に「品質保証」を感じる層が生まれ、それが一つのブランドと化していくのです。
この頃から、企業の商品開発に消費者感情がダイレクトに反映していくこととなり、以降は徐々に現在のあり方に近づいていきます。
【1930年~】
20世紀になると製造業者よりも力を持った小売業者が現れ、特にアメリカでは、小売業者が独自ブランドを掲げ、価格ダンピングなどで製造業者が苦境に立つような状況が生まれはじめます。
かつて日本でも、家電量販店の方が家電メーカーよりも立場が強いなんていう話はよく聞きましたね。
ところで、日本ではメーカー品をコピーした、商品価値が「低価格」でしかないモノでも、量販店によってはプライベートブランドとしていますが、アメリカではそういったモノは、プライベート・レーベルと呼ばれています。
それは、ラベルを貼り替えたモノという意味で、ブランドという位置づけにはなっていないので、ここを誤解しないことは重要です。
ちなみに現在、小売業の世界ブランドNo.1は、アメリカの「ウォルマート」で、日本の小売業では、「セブンイレブン」「ローソン」「ファミリーマート」などのコンビニ勢が強いです。
【1946年~】
「ブランドをマネジメントしていくこと」という概念や基準が明確になった時代が始まります。ブランドが商品の価格競争に大きな影響を及ぼすことが認知されてきたからです。
それによりブランド・マネージャーという職業が生まれ、ブランド戦略をしっかり策定することで、価格競争とは無縁の、長期的に安定した経営を手に入れることが重要視されはじめました。
この傾向は現在も続いているのではないでしょうか。
【1980年~】
さらに、現在のようにブランドという概念が注目され、ブランドの持つ無形の価値が評価されはじめたのは、1980年後半以降のことです。
それまで企業合併が主流だったM&Aが、アメリカのバブル景気でブームに乗って、巨額資金により大型化案件化したり、敵対的買収が始まったりと、様変わりしていきます。
それにともない、企業の価値をはかる新たな指標として「ブランド・エクイティ(ブランド資産)」という概念が生まれます。デービット・アーカーによって提唱された「ブランド・エクイティ」は、ブランドを数値化して「資産」として評価するものです。
それにより、その後はブランドという「無形資産」と、売上などの「有形資産」と合わせた時価総額で企業が評価されるようになっていきます。
ただし、ブランド資産は「固定資産」ではなく、株や債券のような「変動資産」です。
例えば偽装問題などがあれば、その価値が一気に下落したり、場合によっては消失したりしますので、ここでも前提に『約束』があって成立していることがわかると思います。
【1990年頃~】
一方、顧客側に目を移すと、1990年頃から人々は「モノでは感動しなくなった」と言われるようになり、代わって「感動体験」を欲するようになりはじめます。(モノをサービスと言い換えても同じ)
「感動体験」とは何かというと、顧客のライフスタイルにフィットすることや、思想や生き方に触れるようなものものですが、それにより「ブランドの質」が変化していきます。
それまで、ブランドと言えば高級品の代名詞であったのが、「GAP」「ZARA」「H&M」「ユニクロ」「無印良品」のような低価格品でも、『独自の世界観』があればブランドとして認知されるようになっていくのです。
聞いたことがある方も多いでしょうが、「モノ消費」から「コト消費」になったといわれるようになります。
その傾向はICTの進化とともに益々顕著となり、「Google」「Amazon」「Facebook」「Apple」「Microsoft」を中心にインターネット消費が拡大し、サブスク全盛の現在につながっています。
まとめ
こうして、歴史を「ブランド」という価値観でとらえたとき、そこには「ブランドの意味の移り変わり」を見て取ることができると思います。
つまり、ブランドとは「時代によって変わっていく価値観」とも言え、「そのブランドが何を意味するか、どのような価値を持つか」も時代とともに変化していくものです。
こうした理由から、現在においても常に「ブランド」のあり方を模索していく必要があり、そこに「ブランディング」という進行形の考え方が生まれるわけです。
いかがだったでしょうか? ブランドを構築するには、商品・サービス・組織の『他とはちがう独自の価値』を見つけることにはじまり、ネーム、シンボル、デザイン、言葉などの『記号』を使って認知を広げ、さらには、時代の変化を見ながら『約束』を継続することが大切と感じていただけたでしょうか。
ブランド・ブランディングには、もっと様々な側面がありますので、今後数回に分けてお話したいと思います。それではまたの機会に。