こんにちは。みなさんの中にはネットショッピングで選択した商品画像と、送られてきた商品と比べて、色が違うと感じた経験はありませんか?
本題ではないのですが、こうしたケースの返品について結論から言うと、ネットショッピングで購入した商品を色味の違いなどを理由に、返品できないケースはよくあります。
ネットショッピングでは、返品に関してクーリング・オフ制度は利用できないため、事業者が定めた「返品特約」に従うことになるからです。
返品特約に、返品不可の表示がない場合に限り、商品を受け取った日を含めて8日以内であれば、消費者の送料負担で返品が可能になります。
購入前には「返品特約」をよく確認されることをおすすめします。
詳細は、消費者庁の以下サイトにてご確認ください。
ECサイトやカタログにある色についての免責事項
そもそもECサイトには、色についての免責事項が書かれていることをご存知ですか?
「商品写真はできる限り実物の色に近づけるよう徹底しておりますが、お使いのモニター設定、お部屋の照明等により実際の商品と色味が異なる場合がございます」などの文言です。
印刷カタログの場合は、「印刷物につき商品写真と実物とでは相違することがあります」などの文言が裏表紙にあることが多いです。
つまり、メーカーや販売店も商品画像の色について完全に責任を追っているわけではないのです。
ですので、色味や質感などにこだわりたい商品を購入する場合は、店頭で購入するか、ネット購入なら予め現物をどこかで確認することおすすめします。
ここまで読んで、「商品写真と商品の色が違っていても何処にも文句は言えないの?」と、お怒りの方もいらっしゃるかと思います。
まずはプロの現場が、商品写真をどう扱っているについてお伝えしつつ、商品写真の色が正しく表示されない理由を、3点に絞ってお話をしたいと思います。
1. その商品写真は正しく撮影されているか?
商品写真の色が正しく表示されない理由の一つに、撮影の問題が挙げられると思います。
その説明の前に、そもそも「色」とは何かについて、少しお話したいです。
少し難しい話ですが、「色」とは何かについて正確に言うと、「光がモノに当って反射され、その反射光が眼の網膜上に分布している視細胞に刺激を与え、光の波長ごとに異なる刺激に応じて脳が認識するもの」となります。
ですので、モノの見え方は、モノにどう光を当てるかによって大きく変わってきます。
こうした前提に立ち、プロの現場では商品撮影をする際に、色・形状・質感を、できるだけ正確に伝えるための工夫をしています。
具体的に言うと、「ライティング」で商品の素材感や立体感の表現をし、一緒に写したカラーチェッカーを基準に、後で「色補正」をして商品の色を表現します。
特にライティングは、スタジオカメラマンの腕そのものと言っても良いくらい、商品の形状や質感表現をするための重要なスキルと言えます。
色についても、立体物をライティングすると必ず明部と暗部ができ、その中にある中間部で色を表現することになるので、色トビに注意しながらライティングを調整をしていきます。
そしてもう一つ重要になるのが、カラーチェッカーによるホワイトバランス調整です。
ホワイトバランス調整とは、太陽光、蛍光灯、白熱灯、LEDライトなどの光源により色温度の変化が起こるため、それによる被写体の色変化を補正することです。
撮影物と一緒にカラーチェッカーが写っていれば、後でホワイトバランス調整のための色補正することが可能になります。(数値による客観的補正)
プロが撮影したデータを数多く取り扱っていますが、すべて商品らしい色・質感・立体感に配慮した写真表現になっています。
またプロカメラマンは、写真表現が難しいと判断した素材については、色、質感、立体感のどれを重視するかの優先順位を聞いて、ライティングを凝らしていきます。
このように商品撮影現場では、かなり厳しく商品画像の撮影・管理を行っていることを知っていただきたいです。
そもそもですが、ネットショップに掲載されている商品写真が、プロ撮影なのか素人撮影なのかで、色の信頼性は大きく異なります。
素人が撮影した商品写真は、大手メーカーサイトに掲載されているプロが撮影した画像と比較すれば、差は歴然です。
いかにも店員の方が撮ったと思われるような商品写真で、色の判断をすることは危険と知ってほしいです。
2. その商品写真は正しく編集・変換されているか?
みなさんも、JPEGという画像形式をよく見かけることと思います。
web用画像として使われていたり、デジタルカメラや、その他の複写デバイスで画像を撮影して保存する際に、よく使用されています。
ただし、この画像形式は、編集・保存を繰り返す度に画像が劣化し、その結果として色が変わってしまうことがあります。(非可逆圧縮方式と言います)
ECサイトを眺めてみると、パッと見た感じでも、画像の劣化が酷いなと感じる商品画像を時々見かけ、画像編集知識がない方が行っているんだろうと感じています。
また、別の問題としては、カタログで使用したCMYK画像を印刷会社からもらい、RGB変換してECサイトにアップしているケースもあることでしょう。
表現できる色域が小さいCMYK画像をRGB画像に変換しても、撮影時のRGB色域から失われた色が復元することはありません。(詳しくは後述)
画像の編集・変換ミスで、劣化した画像がオンラインで流通し、商品の色が違って見えてしまう原因になっていることも結構あると思います。
さらに、こうした意図せぬミスとは別に、Instagramでよく言われる、「盛る」という意図を感じる商品画像もあります。
個人的な経験ですが、オンラインでシックなサーモンピンクのTシャツを購入したつもりが、届いた商品が蛍光ピンクだったことがあります。
今の時代、Photoshopなどの画像編集ソフトを扱うことができれば、商品画像の色調や彩度の変更など、簡単にできます。
そんなことをすれば、ショップの評価は落ちると思いますが、現実にそういうオンラインショップが存在することを知りました。
そういうショップは自ずと淘汰されると思いますので、ここでは問題外とします。
3. 可視領域とRGB領域・CMYK領域の話
商品写真を管理する立場の方ならご存知かと思いますが、商品画像には、撮影データ(RGB画像)と印刷データ(CMYK画像)の2種類が存在します。
それぞれの画像がどのくらいの色を再現できるかというと、以下の図のようになります。
※CMYK:理論上はCMYで黒は表現されるはずですが、現実にはコゲ茶になるためKインクが必要になります。
そもそも人が認識できる色域が一番広く、その中にRGB画像で表現できる領域があり、さらにそれより内側にCMYK画像で表現できる領域があるという具合です。
ですので原理的に、商品写真と人間が現実に見た商品実物の間には、印象の誤差が生まれることがあるのです。
特に「彩度の高い蛍光色」は、RGBでも全てはカバーできません。(CMYKは言わずもがな)
ただし、そういった色の商品はあまり多くなく、ネオンライトとか、電子機器の発光箇所とか、花火の色とかが該当すると思います。
次に、RGB画像とCMYK画像とでは、表現色域の他に原理的に発色方法が異なりますので、かいつまんで概要をご紹介します。
【RGB=加法混色】
RGB画像は、黒を下地に色を重ねるごとに、白に近づきながら色を作り出す方法で、スマホやPCの画面における発色はこれにあたります。
R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の配分で、様々な種類の色を表現しています。
RGB画像は、光による混色とも言え、光を出力する装置が必要になり、それゆえ装置の性能やメーカーによって、発色が異なることをがあります。
また、モニター設定や環境光の影響も強く受けるため、状況によって見え方が変わりやすい混色方法です。
RGB画像は、CMYK画像に比べて色域が広いですが、世の中には多種多様なモニターがあり、個々に表現できる色域は異なるため、画像にカラープロファイルを埋め込むくらいしか、色管理の手段はありません。(モニターとカラープロファイルの一致が前提)
ECサイトににある、「商品写真はできる限り実物の色に近づけるよう徹底しておりますが、お使いのモニター設定、お部屋の照明等により実際の商品と色味が異なる場合がございます」の文言の意味はここにあります。
【CMYK=減法混色】
CMYK画像は、白を下地とに色を混ぜることで黒に近づきながら色を作り出す方法で、印刷における発色はこれにあたります。
通常の印刷機の場合、C(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)、K(キートーン:黒)のインクを混ぜ合わせることで様々な色を表現します。
減法混色は、インクと下地の混色とも言え、加法混色に比べると、色覚障害を持っていない限り、人によって見え方の違いが比較的起きにくい混色方法です。
ただし、インクや素材(材質や紙質など)によって、見え方が変わることもあり、印刷機器のメーカーによっても、微妙に色味が変わります。
さらに言うと、インク、素材、印刷機器をすべて統一して出力しても、刷り初め時と刷り終わり時で比較すると僅かに色ブレは起きてきます。(印刷の物理的限界)
しかもCMYK画像は、RGB画像に比べて色域が狭いため、鮮やかなオレンジやグリーンやパープルなど、4色インク(※)では表現できない領域もあります。
昔からカタログに、「印刷物につき商品写真と実物とでは相違することがあります」などの文言があるのはそのためです。
※特色インクを追加したり、CMYKRGBの7色印刷をしたりと、インクの数を増やして色域を広げる方法はあります。ただし増やせば増やすほどコスト高になるため、美術印刷や高品位グラビアなどの特殊なケースを除き、採用されることは多くありません。
原理的に避けられない色誤差があることを知っていただきたい
RGB画像とCMYK画像の違いを説明しながら、Webサイトや印刷物における色表現の限界についてもお話させていただきました。
とは言え、きちんとプロが撮影して使用目的に合わせた画像編集すれば、消費者が不満を感じないレベルの商品写真にすることは可能です。(カタログ制作現場では常識)
ですので、情報発信側が正しい商品画像の色管理を認識していれば、現物とさほど大きな印象の違いは生まれず、仮に違いを感じたユーザーがいても、上記内容による色誤差の範囲で納得されることと思います。
また、こうしたことを理解するユーザーが増えれば、色や質感にこだわって商品を選びたいときは、自ずとリアル店舗に向かうことでしょう。
まとめ
いかがだったでしょうか? 少し難しい話もあったと思いますが、できるだけ要点を噛み砕いたつもりです。
世の中の商品画像がもっと商品らしさを表現できれば、社会はより良くなっていくことと思います。
この記事が、ネットショッピングや商品写真管理のお役に立てば幸いです。