こんにちは。都知事選での石丸伸二候補の躍進が、このところずっと話題になってますね。
SNSやWeb広告、ネット動画を駆使した選挙戦略が功を奏して、165万票を獲得し、一躍時の人になったといった感じです。他候補と比較すると、ネットメディアの使い方が群を抜いて上手かったと思います。
とは言え、敗因はマスメディアの報道の少なさだと、ご本人は指摘しており、既存メディアの力もあらためて感じさせられる結果となりました。
そこで思い出したのが、4年前に読んだ「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします」という本です。2017年に上梓された本ですので、広告業界には既に読まれた方も多いでしょうが、業界以外の方にとっても面白い本です。
都知事選などのニュースで、SNSやネット動画の活用に興味を持つ方は増えているはずですから、そういう方にはお薦めの一冊です。
この本は、1990年代のマス広告とWeb広告との関係、SNS広告の出現、その後カオス化する広告媒体の変化を整理整頓し、その中から普遍的な「広告の本質」を教えてくれています。
筆者は1962年生まれのコピーライター兼クリエイティブディレクター小霜和也氏。その年齢の方が今もデジタルクリエイティブの一線で活躍されていることに驚愕します。
読後の感想としては、マス広告とWeb広告をどちらも経験した上で比較しながら語れる方の話ってかなり貴重だなと……。
タイトルに「急いで」とあるように、1995年〜2017年にわたる広告業界の変遷を大急ぎで語っているため情報量は膨大ですが、事例になぞらえてあるため誰でもフムフムと読めます。そこで印象に残った、わたしたちが陥りやすい4つの思い込みについてご紹介します。
(著者サイトリンク https://noproblem.co.jp/)
思い込み①「Web広告=安いけど効果がない」という誤解
そもそもテレビ媒体と違い、デジタル媒体は安価で効率重視の刈り取り装置のように考えられがちで、著者はその弊害を指摘しています。
「Web媒体=無料もしくは安価」という思い込みが、「バラ撒いて、祈るだけ」という効果の上がらないWeb広告の現状を生んでいると。
それに対してWeb動画だけでもクリエイティブと媒体計画を最適化すれば、TVCMと同様の効果が得られることを事例になぞらえて紹介しています。
Web広告で正しい成果を得るには、制作費にも媒体費にも適切な予算を掛け、ある程度「票読み」ができる状態にすることが重要と言っています。
TVCMほどはないとしても、Web広告にもしっかり予算をつけ、きちんとした媒体計画と制作体制で実施すること。
それをせずに「安物買いの銭失い状態」になり、その結果、「Web広告は安いけど効果がない」と間違った結論に至るクライアントが結構いるそうです。
思い込み②「数字が見える=成果が見える」という誤解
Web広告では様々なスコアが見えるようになっていますが、それはあくまでクリック数や動画視聴回数など測定可能な数値であり、「広告の購買への影響度」ではないということ。
選挙で活用する場合で言えば、動画視聴回数と「投票行動への影響度」は別物であるということです。
この本を読む限り「数字が見えるのに成果まで見えない」ことに不満を感じる広告主がいらっしゃるようです。
それがWebマーケティングの「数値化」という言葉の罠で、人間の脳内の測定にまで及ぶと誤解しちゃうのでしょうね。
では、Web広告に期待していいことは何かというと、スコアを見ながら改善していける点です。
マス広告を出すときは「出稿」と呼ぶようにそこがゴール、Web広告は「運用」という言葉通りそこがPDCAサイクルのスタートになるのだと。
やってみて、結果を見て、改善して、また結果を見て改善する、そのサイクルで広告露出の効率を高めていくことがWeb広告の正しい活用法だと述べています。
思い込み③「TVCMはすでにオワコン」という誤解
若年層のTV離れからTV媒体が弱体化していることは事実ですが、TVCMにはまだまだ強い影響力があるということ。
それはGoogleやAmazonなどWebサービスを提供している巨大IT企業も、TVCMを出し続けているという事実が物語っていると述べています。
近年WebCMとTVCMで棲み分けが進んでいるようで、WebCMは「プライベート」な性質を帯びた広告に、TVCMは「パブリック」な性質を帯びた広告となってきたと言います。
その活用方法を漁に例えると、一本釣りのように「この魚を釣りたい」場合はWebCMが、投網のように「どんな魚でも獲りたい」場合はTVCMが向いているようです。
また、TVCMの持つ「パブリック感」は今後もブランディングを考える上で捨てるべきではないと。
というのも実際、TVCMを大量出稿すれば認知率は60〜70%くらいまでいきますが、WebCMだと20%くらいが限界になるからだそうです。
媒体の多様化によってターゲットに合わせてクリエイティブを最適化すると同時に、媒体計画を最適化することがますます重要な時代になってきたということしょう。
ただ、上述の媒体特性にも例外が生まれてきているようで、YoutubeやAmebaTVなどでは徐々にWebCMが「パブリック感」を帯びてきたと指摘しています。
思い込み④「Web動画広告は面白くなくてはいけない」という誤解
Web動画広告はSNSに先駆けてYouTubeで始まったため「面白くなくてはいけない」と誤解している人が結構いるということ。
しかし、面白くて多くの人に「観られる」広告でも、商品の印象が薄く「売れない」広告では広告主にとっての悪夢になってしまうと指摘しています。
情報過多の現代社会ではTVCMにおいても「面白いもの」より「わかりやすいもの」の方が、好感度が高く良い結果につながりやすいそうです。
とくにSNSに流すWebCMの場合は、尺も短くユーザーの注意も散漫なので「超わかりやすいもの」でなくてはならないと述べています。
そして、ネットメディアの落とし穴でよくあるのが、スコアをどう上げるかが目的になってしまう「手段の目的化」だと指摘しています。
どこまでいっても基本は「広告の使命を、デジタルを取り込んでどう効率化するか」であると語っています。
今後ネットメディアに向き合うということ
いかがだったでしょうか?
広告関係者でないとピンとこない内容も含まれているとは思いますが、メディアが溶解して認知を広げる方法が大きく変化したことをご理解いただけたのではないかと思います。
ICT過渡期の現在、ネットメディアと向き合うときに一番大切なことは「わかっていないと思って取り組むこと」と著者は語っています。
そんな中で、今後重要になりそうな価値として、amazon読者レビューのような「保証感」を挙げています。成功している企業はこの「保証感」をうまく取り入れているように見えると……。
それはフェイクニュースやイカサマまがいの広告が流れるネットメディア特有の価値かもしれません。
この本を読むと、ICTの進化ともに変容を続けるネットメディアとの付き合い方について、人類はまだまだ取り組みながら学んでいる最中と気づかされます。
今後は、広告のみならず個人の情報発信においても、こうしたメディア・リテラシーが問われるケースがますます増えていくことでしょう。